2024年2月23日 第34回
牛を放牧しているススキ草原生態系で、ウシの密度を上げるとススキは消えて、ネザサが優先する。ウシの密度をさらに上げるとシバが優先する。このときウシの密度は当初の3∼4倍になるが、ウシに食物不足は認められない。すなわち、ある面積で養える動物の数は固定的と考える人が多いが、草原などの生態系は過放牧の圧力を、植物の種を交替することにより、「しなやかに反応」し軽減しているのである。
セレンゲティ草原で、ウシカモシカがイネ科の植物を摂食していた。この草原にウシカモシカを排除する枠を予め設置しておいた。ウシカモシカが去った1ヵ月後にガゼールが移入してきた。ガゼールの移入と同時に、排除枠は撤去した。ガゼールはウシカモシカが摂食した「排除枠外の植物を好んで摂食」した(McNaughton, 1976 )。この枠外はウシカモシカが摂食した後なので、イネ科の植物の量は明らかに少なかった。しかしながら、摂食後に回復した枠外の植物の栄養価は、はるかに高かった。いっぽう、ウシカモシカが摂食しなかった枠内の植物は、量は多かったが、栄養価は低かった。ウシカモシカの摂食は植物の栄養価を高めて、遅れて移入するガゼールの栄養を支えていたのである。
生態系の土壌もしなやかな反応を示す。
酸性雨に含まれる水素イオンH⁺は土壌から毒性の強いAl3⁺を溶出させると懸念された。したがって、酸性雨は土壌や植生を不毛にすると大問題になった。今はこれを問題にする人はいない。なぜであろうか。
日本の深さ20cmまでの酸中和容量は平均152kmol/ha であり、1年当たりのH⁺の降下速度は約1kmol/ha である。したがって、152年後に中和容量がなくなって、Al3⁺が溶出するとされた。これは土壌カラムにH⁺を「短時間」に添加する実験から得られている。この短時間の実験には、鉱物の「風化」による「中和」は含まれていない。風化による中和速度は約1kmol/ha/year 程度である。すなわち風化による中和を考慮すると、酸性雨の水素イオンH⁺は土壌からAl3⁺ を溶出させないし、土壌や植生を不毛にしない(佐藤・瀬戸1992、佐藤1997)。
【コラム2.12】「プロパンガスがマツタケを減らした」の意味は?
マツタケは生きた松の根っこに活物寄生する。このとき根の周辺の土壌は乾燥していることを好む。かつては、落枝落葉は燃料として運び出されていたから、土壌は乾燥気味であった。プロパンガスの登場で落枝落葉の運び出しが減り、根の周辺はマツタケの嫌いな湿潤に変わった。かくしてマツタケは減ってしまった。
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