2024年1月17日、第32回
森林生態系の緑色植物の総光合成速度Pg(t/ha/year、 乾量)はたとえば20であるとしよう。乾量20の有機物が森林に蓄積するわけではない。緑色植物は光合成で有機物を蓄積するだけではなく、呼吸で有機物を消費しているからである。図1 を見ながら考えてみよう。なお、乾量の蓄積・消費はCO₂の吸収・排出と同じである。
緑色植物のRがたとえば8なら、これをPg の20から差し引くと、12となる。この12が緑色植物のみかけのPnである。ところで、この12の有機物が森林に蓄積するわけではない。この12は生食連鎖の動物などに消費され、さらに、落枝・落葉をつうじて腐食連鎖の微生物などに消費される。けっきょく、12のほんの1部、たとえば0~3が幹に蓄積する。これが森林生態系の、すなわち幹材の、みかけのPn (t/ha/year、 乾量)である。
生態系のPnは、「成熟」するにつれ、0(ゼロ)にむかう。なぜなら、緑色植物のR、さらに、動物と従属栄養微生物のRの合計値は、緑色植物のPgに限りなく収れんするからである。
適切な手入れをしたときの日本の「若い」生態系のPnは最大で2(t/ha/year、 乾量)くらいである。このとき、日本の全森林(2500万ha)は年あたり乾量で6000万t弱を蓄積する。すなわち、毎年6000万t弱の幹を間伐しても、この量は1年後には回復して、森林は定常状態に保たれる。
なお、現在の日本の森林は間伐などの手入れが不十分でPnは約2800万tである。
【コラム2.10】 伝わりそうで伝わらない その2.
1)
Pn (みかけの生産net
production) のnはnetの略である。このnetの訳に多くの人が苦労している。netの訳には「みかけ」が適切とされているが、それでは伝わらないとして「みかけ」の代わりに「純」「真」「実質」「正味」などを使う人もいる。これではますます伝わらない。 なお、「真の」なども如何なものか。では「嘘の」Pnってあるの?
2)海のワカメなどに吸収させたCO₂の炭素を「ブルーカーボン」という。これに地球温暖化対策を関連づける東京新聞の記事(2023年4月22日)は推敲が不十分であった。たとえば、「日本のワカメなどに年132万tのCO₂吸収が期待される」という。 CO₂吸収がPg(総生産), Pn(みかけの生産)のどちらかは曖昧、期待されるの意味が曖昧、さらに、対象海域の大きさが曖昧であった。これではブルーカーボンの意義が評価できない。
排出権として3700tの「ブルークレジットを認証した」というから、ワカメなどによるCO₂削減量(Pn、上述の図1の生態系のPnに相当
)は3700tと評価されたのであろう。これはこの記事の「要」の部分であるが適切な記事であろうか。いっぽう、日本の京都議定書で約束したCO₂削減量(Pn)は7000万tである。これと比べると、3700tは議定書約束の2万分の1に過ぎない。すなわち、ワカメなどのブルーカーボンの量的意義は小さすぎる。
いっぽう、日本の森林によるCO₂の削減量4800万t(Pn)は約束量の2分の1強である。森林の削減量は、ワカメなどのブルーカーボンより、はるかに大きい。それにもかかわらず、森林による温暖化防止能を適切に評価する記事は少ない。記事で何を問題とし何を伝えるか。新聞の見識とリーダーシップが望まれる。
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