【環境ミニ講座2.7.】 食の安心・安全をめぐる知恵

                                                                                 


                                                                                    2023/11/ 25 第29回

 食の安心・安全の知恵は玉石混交である。

たとえば、「卵はコレステロールのかたまりだから、摂食はひかえよ」とされてきたが

、健康な人は1日に1500~2000㎎のコレステロールを自らの体内で合成する 。なお、1個

の卵には約240㎎のコレステロールが含まれる。1日1個以上の卵を食べる人、全く食べな

い人の急性心筋梗塞や狭心症に差はない。長年の「摂食はひかえよ」は何だったのか。

これに対して、確かな判断もある。たとえば、世界では小麦粉と豆を一緒に食べる習慣

が一般である。主食である小麦粉に必須アミノ酸のL-リジンは少ない。いっぽう、大豆・

インゲンには多い。一緒に食べることによって、リジンの不足を補う歴史的な知恵である

。 なぜ冬至にカボチャを食べるのか。秋に摂取したビタミンAは肝臓に2,3か月貯蔵で

きるが、冬に枯渇してしまう。冬至に枯渇するビタミンAをカボチャで補う知恵である

。     

トクホ(特定保健用食品)は、消費者庁長官の許可を得て、保健の効果を表示してよい

食品である。1兆円以上の市場が過熱している。ただし、トクホは医薬品ではないから、

薬の効能をうたうと「薬事法」に抵触する。そこで効能はビミョーな表現になる。血中の

コレステロールを正常に“助ける”、おなかの調子を“整える”、骨の健康に“役立つ”

などという。「これはホント―に効きます」などといわせながら、テレビ画面の端のテロ

ップには「個人の感想です。効果効能ではありません」などを添えている。

 さらに悩ましいのは、機能性表示食品(栄養機能食品)である。メーカーの判断で栄養

成分の働きを表示する食品である。消費者庁の許可はいらない。「内臓脂肪を減らす」と

は言えず「減らすのを“助ける”」のように有っても無くてもよい言葉であふれている。

 加えて、アメリカ合衆国の栄養補助食品サプリの参入である。これらのサプリには有害

な製品・過剰宣伝が多い。たとえば、「頭のよくなる薬-スマート・ドラッグ」や「ドラ

イミルクで頭の良い子に育てよう」、そして、……。

以下はここ40~50年の間にブームになったり、消えたり、形を変えて再出現したサプ

リやドリンク剤の時系列である。これらをふり返って、ブームの背景に何があるのかを議

論してみよう。

「クロレラ ⇒ スピルリナ ⇒ 紅茶キノコ ⇒ ユーグレナ ⇒ 乳酸菌 ⇒ ?」




【コラム2.7】森永ヒ素ミルク

1955年頃、西日本を中心に乳児に重篤な中毒が発生した。原因はヒ素を含んだ粉ミルク

であった。粉ミルクをつくるとき、古くて酸っぱくなった牛乳も原料にした。酸の中和に

は安価な工業用アルカリを使った。この工業用アルカリにヒ素が含まれていた。約130名

が死亡、100倍の1.3万人が重篤な後遺症を患った。

「赤ん坊の元気がないから元気になるようにたくさん飲ませた。まさかこれに毒がある

とは」と母親は、粉ミルクではなく、自分を責めていた。

「ドライミルクで頭の良い子に育てよう」などの根拠のないコマーシャルは今後もなく

ならない。また、母乳のほうが粉ミルクよりすべての面ですぐれていることをコマーシャ

ルが伝えるわけがない。

われわれは、売り上げを優先し、リスクをいとわない経済競争の中で生活している。で

きることはリスクを分散することしかなかろう。たとえば森永粉ミルクのヒ素の濃度は致

死量ギリギリであった。特定の銘柄にこだわらずに、今週は森永の、来週は明治の粉ミル

クのように、分散して摂取していれば死亡や後遺症の人数は激減していたはずである。

こんなことを書かなければならないほど、食の安心・安全は後回し、利潤優先なのであ

る。

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