2023/11/ 10 第28回
農作物の優良品種の選別は篤農家を中心に行われてきた。しかしながら、選別を篤農家
だけに依存するわけにはいかない。得られた新品種の権利は、たとえ時間や資本を大量投
入しても、この篤農家の努力が保障されるとは限らないからである。そこで「種子法
(1952年に制定)」が制定された。これにより優良な種子の育種・選別は国や自治体が公
的に行い、獲得した優良品種は国民の共有の財産とされてきた。
優良品種といえども自家受粉がくり返されるとやがて劣化する。そこで、遠縁の同種の
遺伝子を交配して、雑種強勢株を育種し選別することが広く行われてきた。これがF1品種
(Filial 1 hybrid、一代雑種)である。たとえば、もともと熱帯亜熱帯のイネは寒冷地
の北海道などでは栽培できない。ところが改良品種「一目ぼれ」は寒さに強い。この品種
はササニシキを低温の地下水で冷害を模倣しながら多様な交配を繰りかえし、ついに寒冷
地の奨励品種として市場に登場させたのである。なお、「ササニシキ」はべたつかないか
ら寿司米としもて好まれている。しかしながら、「種子法」は2018年に「拙速」に廃止さ
れた(山田、2019)。
最近は、異種間の遺伝子の交配も可能になった。これは「ハサミとノリ」の技術といわ
れる。ハサミの役割をする酵素を用いて目的の遺伝子を切りとり、必要とする生物にノリ
の役割をする酵素を用いて貼りつける。この生物(GMO, genetically modified
organism)は新たな能力を持つことになる。たとえば、モンサント社などは、除草剤ラウ
ンドアップ(主成分グリホサート)を分解する遺伝子を「ハサミ」で切りとって、必要と
する作物に「ノリ」で貼り付けた。この作物は除草剤がかかっても枯れない。ハサミとノ
リのGMO技術は異種間の遺伝子組み換えも可能にするから多様な遺伝子交配に大きな期待
が寄せられている。
種子法の廃止とGMO技術の特許の背景には、「公共財の種子」を「私的な財」にして目
前の利潤を囲い込む大企業の工業化戦略が見られる。これは持続的で公正な食料生産を遠
ざけることになりはしないか。
なお、過去に例のない組みかえ生物、GMO、の出現にたいして安全性に対する不安は根
強い。しかしながら、モンサント社は「実質的同等性」を主張して安全であるという。
また、同種・異種間の交配品種を問わず、新品種の選択は大量の肥料と大量の農薬投入
を前提として行われてきた。環境への負荷が大きくとも収益を優先し、環境を考慮した農
業が生み出す公益的価値の生産はずーっと後回しにされている。
【コラム2.6】 世界の有機栽培の現状と課題
有機(organic)栽培、すなわち「非遺伝子組み換え」作物を無化学肥料・無農薬で栽
培する、に期待が高まっている。しかしながらその面積は未だ小さい。全耕地面積に対す
る、有機栽培面積の割合(%)は、日本0.5, 中国0.4、米0.6、ドイツ7.5、イタリア14.5
などである。
組み換え遺伝子は風などで運ばれて「非遺伝子組み換え」作物に混入することがある。
そこで、欧米では遺伝子組み換え作物の混入率が全重量の0.9%未満のとき「非遺伝子組み
換え」として表示できることにした。この混入率を日本は0%にするという。NHKなどは表
示を「厳格化」したと評価しているが、そうではあるまい。この0%は現実的には達成困難
であるから、日本は非遺伝子組み換え作物を、厳格化を理由に、葬ったことになる。
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