【環境ミニ講座2.5】 稚拙な開発と司法の放棄

 


                               2023/10/25  第27回


 諫早湾は干満の差が数メートルもある豊穣の湾であり、干潟であった。魚介類の“ゆり

かご”として卵や稚魚を育み、水質を浄化するなどの生態系サービスは1日当たり1億円

と評価されていた。二枚貝のタイラギは高値で取引され、若者はタイラギ漁師を競って後

継したという。

 農水省は諫早湾を、総工費2530億円で、干拓して農地を造成した。湾を「ギロチン堤防

」で締切り、陸側の湾を「調整池」とした。ここに河川水を貯留し、農業用水に使うとい

う。1997年の堤防閉切り後、何がおこったか。

             

 調整池の農業用水は、アオコの大発生により肝臓毒の猛毒ミクロシスチンが生成され、

腐り始めた。隣接する海水の湾のノリや魚介類の生産は激減し、湾に漏れ出たミクロシス

チンは魚介類の摂食がはばかれるほど高濃度に検出された。また、調整池の水を使ったコ

メからも検出された(高橋徹2015)。さらに、タイラギ漁師はかつての100軒が今や1~2

軒に激減し地域の過疎化が始まった。


 堤防閉め切りがアオコの大発生の原因であると主張する漁業者の訴えを認めた福岡高裁

は、2010年「開門せよ」と命じた。このとき国は上告を断念した。しかしながら、干拓農

地の農業者の訴えを認めた長崎地裁は、2013年「開門せず」とした。

 そして、2019年6月、最高裁は「開門せず」として、漁業者敗訴が決った。

 コメ余りの時代に、1ha当り4億円も税金を投入して農地を造成し、魚介類などのグルメ

志向の時代に豊穣の湾と干潟を破壊する。この稚拙な開発に巨額の税金を投入し、環境破

壊の責任をだれもとらないのである。最高裁の司法放棄も問わないのである。

 これでは「持続的」な社会を否定し、「公正さ」を踏みにじることになる。




【コラム2.5】合法的な着服

 2530億円をいきなり着服したら犯罪である。ところが公共事業の手続きを経て着服した

2530億円なら咎められない。たとえその事業が不要で、地域の人たちの生活を破壊するこ

とになっても、着服は咎められないのである。

 諫早湾の干潟を温存してくれるなら、2530 億円は「タダ」でやればよかった。そうす

れば干潟と地域の豊かさは残せたから、被害は半分ですんだ。この私の主張は異常である

。なお、公共性や国益を偽装して着服する公共事業とこれを容認する最高裁はもっと異常

である。                                 

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