2023/10/10 第26回
日本の政財界は農林業は「経済効率が低い」から農林業への補てんは「過保護」につながるという。いっぽう、工業の経済効率は高いという。これらの評価は適切・公正であろうか。
農地や森林はコメや材木を生産しているだけではない。国土保全などの公益的価値も生産(総生産速度Pg)している(表1)。
現在の農林業の経済効率には、公益的価値の生産を入れないから、著しく過小評価になる。いっぽう、工業の経済効率には、環境修復費を入れないから逆に過大評価になる。適切・公正な経済効率の評価に必要なことは「環境」を包含した経済学である。
農林業の経済効率=(農産物の価値+公益的価値)/投入費用
工業の経済効率 = 工業製品の価値/(投入費用+環境修復費)
農地はコメなどの食料を103万円/ha/年 生産するが、治水などの公益的価値を173万円/ha/年 も生産している。 干潟は食料生産も大きいが、公益的価値1,057万円は巨大である。それにもかかわらず、干潟は歴史的には生産性が低いとされ、埋めたての対象とされてきた。
人はコメなどの生産量や額に関心を払うが、公益的価値の量や評価額には、恩恵に浴していながら、無関心である。この無関心は、目先の利益のみを追求して、「公益的価値に鈍感に、ひいては入会地の悲劇に鈍感に」なる。これでは、持続的社会は語れない。
表1.農地、森林、干潟における食料・材木と公益的価値の総生産速度Pg(万円/ha/year)
農地 森林 干潟
食料・材木の総生産 103 3 190
公益的価値(治水・国土保全など)の総生産 173 278 1,057
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(日本学術会議、2001、環境省、2014などから、瀬戸作表)
工業の経済効率を、「過保護」と「環境修復費」を中心に、もう少し考えてみよう。
1) 自動車専用道路の「東京アクアライン」は片道1台あたり約1万3000円を徴収してようやく採算がとれる。しかしながら、この高額料金では利用者は限られる。そこで片道1台あたり、約1万円の税金を補てんしている。工業への「過保護」の補てんである。
2)自動車による大気汚染の修復費は1台当り1200万円(宇沢、1974)以上にもなる。米国では大気汚染を半分に減らすだけで、癌の完全治療費がえられる(Lave & Seskin, 1970)。 自動車工業がもたらす環境汚染の修復費は極めて大きい。
なお、大気汚染の治療費は被害者が支払っている。加害者の自動車工業界ではない。
3)原発は、設計・施工・運転・廃棄物の処理まで、税金の補填がなければ成りたたない。 事故の後始末も全面的に税金に依存している。これこそ超過保護ではないか。
現在の経済効率で持続的社会を語っても不毛である。不適切な経済効率からは不適切な判断しか生まれない。不適切な評価は利益は特定の人が占有し、社会や環境の不利益は不特定多数で修復するという「入会地の悲劇」を蔓延させる。適切な評価は社会の「公正さ」を重視し、たとえば農山村を活性化し、持続的治水や国土保全策ひいては持続的未来社会の構想につながる。
【コラム2.4】笑えそうで笑えない
1)「いちばんベスト」を笑っていたら、「いちばんベター」ときた。これ笑えないよね。
2)インタビューされた人が、「速度が高い」と言ったら、TVのテロップには「速度が速い」と訂正!? していた。
3)人影のまばらなローカル線で、目的地は次の駅だが、アナウンスがなくじりじりしていた。ドアが閉まってから車内放送があった。「次の駅には止まりませんからご注意願います」。 きらいだ。
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