2023/ 7/20 第21回
流域に降った大雨は下流の都市に甚大な洪水害を及ぼすことが多い。そこで、都市上
流に地下ダムを建設し、ここに洪水をいったん貯留して、都市下流へのインパクトを和ら
げる試みが盛んである。
たとえば、国は春日部市に、貯水量67万tの地下ダム(首都圏外郭放水路)を建設し
た。ここに洪水を貯留し都市への水害を減らすという。さて、多くの河川は1秒間に
1000t以上の洪水が流れると水害をおこしやすい。このとき67万tの地下ダムはわずか11
分で満杯になる。地下ダムの治水の量的意義は小さすぎる。
いっぽう、適切な管理をすると森林・水田の1㎢ あたりの貯水量は30~35万tになる
。なお、2㎢ あたりの貯水量は60~70万tで地下ダム一基の67万tと同じである。
適切な管理をすると、森林・水田のたとえば2300㎢ の貯水量は6.9~8.1億tになる。
この貯水量は地下ダムの1000倍強であり、八ッ場ダム貯水量1億750万tの7倍強である。
地下ダムの年あたりの管理費をダム建設の1割の230億円とし、これで地下ダムは67万
tを貯水するとしよう。問題は、同じ230億円で2300㎢ の森林・水田は管理できるであろ
うか。私の評価は以下のとおりである。
毎年230億円を2300㎢ の森林・水田に投入するなら、1㎞ 2 の森林・水田に1千万円を支
払うことになる。1㎞ 2 の森林・水田を10の農林家が管理しているなら、1農林家に100万円
を支払うことになる。100万円が支払われるなら、農林家は森林・水田を積極的に管理し
洪水の貯水量を上述のように高めることができるであろう。
すなわち、地下ダムの年あたりの管理費230 億円 だけで2300㎢の森林・水田は地下ダ
ム(67万t)の1000倍の貯水ができる。ここにはダムそのものの建設費2300億円はもちろ
ん不要である。なお、2300㎢ は日本の全森林・水田270,000㎢ の1%弱に相当する。
さらに、この230億円は洪水の貯留のみならず農山村の活性化をつうじて様々な公益
的価値を生む。公益的価値の受益者は誰か。都市生活者である。ここに都市は公正な経済
的インセンティブを提供して農山村を活性化すべき十分な理由がある(瀬戸、毎日新聞(発
言席)、2008年2月24日)。
【コラム5.5】1)失ってはじめて気づくこと
千葉県市川市では宅地化により、水田が消えはじめた。これと同時に洪水害も増えは
じめた。100億円かけた洪水調整池、さらに毎年数十億円の土木工事も、治水には不十分
であった。そこで市川市は水田の復活・維持を農家に呼びかけた。農家への支払総額は1
年に0.3億円にもならないが、治水には大きな効果が認められた。しかしながら、市川市
のこの賢い政策は普及するどころかたちまち消えてしまった。この背景に何があったのか
。
2)方針転換の説明は?
蒲島郁夫は川辺川ダムに反対して熊本県知事になった。彼は「ダムによらない治水」
から、十余年の後に、流水型のダム容認へ方針転換した。考えや方針を転換することは問
題ではない。問題は方針転換の説明がないことである。まさか選挙の集票のためのリップ
サービスではあるまい。
たとえば、球磨川全流域に500mmの降雨があると総流量は9.4憶㎥となる。これに対し
て、予定の川辺川ダムと既存の市房ダムは、合計1億㎥ 程度の洪水しか調節できない。こ
れで球磨川流域の洪水害をどのくらい緩和できるのかなどを説明すべきではないのか。
3)脱ダム―アメリカの英断―
アメリカ合衆国は「ダム開発の時代は終わった」と宣言した。理由は、ダムから得られ
る利益はダムへの投資より小さいからと単純明快である。また、フーバー・ダムですら利
益は環境へのマイナスより小さく、ミシシッピ川の開発も利益は小さいとしている。さら
に、既設のダムの撤去もはじめた。ダムの撤去は人と川を近づけ、けっきょくはカヌ-や
ツーリストなどを復活させ、地域の活性化をもたらすことになった。ここには、「持続的
」かつ「公正」な自信に満ちた決断がある。
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