【環境ミニ講座5.3】 八ッ場ダムのウソ・ホント   




                              2023/6/15第19回

 カスリーン台風は利根川流域に、1947年9月15日、洪水をもたらした。このとき、3日間
の降水量は318mmであった。国交省はこの規模の台風が再来すると、毎秒5500tの水が溢れ
、現在の堤防では洪水が避けられないという。
 洪水を防ぐために、利根川の北西の支流の吾妻川に八ッ場ダムが必要とされた。この多
目的ダムは総貯水容量1億750万tである。事業費は当初の2110億円から膨らみつづけ、起
債の利子も含めると国民の総負担額は今や1兆円に近い。
 いっぽう、水没予定地の河原湯温泉街は201戸から、90戸(2006年)まで減少し、温泉
街の衰退と、ここで働く人たちの生活破壊がとまらない。
 国交省は、利根川上流域の降水の浸みこみ量(飽和雨量)は48mmと小さく、これをこえ
ると全降水は河道へ流入して洪水をもたらす、と警告している。しかしながら、カスリー
ン台風が襲った利根川上流域は終戦直後のハゲ山であった。その後の数十年で植生の回復
、土壌の回復があったから、飽和雨量が48mmのように小さいままのはずがない。
 現在の流域は植生などが回復し飽和雨量は130mm~200mm、最終流出率は、400mmを超えても、0.55~0.84である。すなわち、洪水防止能が顕著に回復しているのである。
実は国交省は、外部にダムの必要性をでっちあげるために飽和雨量48mmを用い、内部で
は130mm~200mmのダブルスタンダードを用いていた。
 さらに、驚くべきことに、カスリーン台風が再来したとき、八ッ場ダムは洪水軽減と無
関係であることを国交省も認めている。利根川中流の八斗島の洪水ピーク水位は、八ッ場
ダムができても10㎝程度しか下がらず、東京都の江戸川では数㎝しか下がらない。
 八ッ場ダムは洪水防止には「量的意義」を欠き、政策としては共有できない。それでは
、治水ではなく、利水に八ッ場ダムは必要なのであろうか。
 都の保有水源の最大量は2015年694万t/日、水道の最大給水量の実績は465万t/日であ
るから、用水不足どころか、すでに水余りが顕著である。なお、これにはたとえば多摩地
区の地下水40万t/日は水源に入れていない。国交省は地下水は「不安定」であるから水源
に入れないという。地下水こそ「安定」な水源であるのに、ダム建設を増やすために、む
りやり「不安定」としているのである。
 また、6都県の水道用水の1人1日最大給水量は1992年度491 ℓから2013年度364ℓと20年間で顕著に減少し、工業用水の使用量も減少している。くわえて、人口減少である。用水の確保にも八ッ場ダムはムダなのである。            

 
【コラム5.3】
1) 八ッ場ダムの評価
 台風19号(2019年10月12-13日)は空の八ッ場ダムをいっきに満水にした。「ダムが下
流の洪水を防いだ。ダム反対者は反省しろ」の声がかしましい。
 これに対して、以下の声も聞こう。
 利根川の中流部の堤防は計画高水位(9.90m)より2mの余裕があった。したがって、ダム
がなくとも中流部は氾濫しなかった。下流部(取手市、茨城県)は浸水したがダムによる
最大流量の削減率は1%程度であったから、ダムがあろうと浸水は避けられなかった。
 けっきょく、浸水は、ダムではなく、堤防をあげれば避けられた(TOMORROW Vol.39, pp4-5,2019年12月、八ッ場あしたの会、嶋津暉之「台風19号で八ッ場ダムが利根川を救った」はフェイクニュース)。

2) 司法を放棄した裁判所
 水余りが顕著であるにもかかわらず、都は八ッ場ダムの水50万t/日の水利権として472
億円を負担した。この税金の不適正使用をストップさせるために八ッ場ダム住民訴訟連絡
会は提訴した。この訴えはきわめてまっとうであるから、とうぜん勝訴すると思えた。し
かしながら、訴えは最高裁まで引きずり込まれ、訴訟連絡会は20連敗させられ, 解散した。
 裁判所は持続的で公正な水行政を求める住民のまっとうな主張をねじ伏せ、司法に消し
難い汚点を残したのである。

 

コメント