2023/5/25 第17回
世界では毎年1000mmの降水があり、同じ1000mmの水が蒸発散している。この値は地域によって大きく異なる。農業や都市活動は大量の水の消費をともない、降水より利水量が多いとその地域の水資源は枯渇に向かう。
なお、水がバケツなどから大気へ出てゆけば「蒸発」、植物の葉っぱなどから出てゆけば「蒸散」、両方合わせて「蒸発散」という。降水には雪や雹も含まれる。
以下は、世界の水枯れのショッキングな例である。すべての例は人が水資源を過剰に消耗し、水の循環を不可逆的に破壊していることを示している。
オガララの地下水は枯渇しつづけている。
北米中西部に広大なオガララ平原がある。ここはトウモロコシ、小麦、肉牛などの農業生産が活発である。農業用水はオガララ帯水層の水から得ている。この水は「化石水」である。この地域は準乾燥気候で降水量は年わずか500mm以下である。降水よりくみ上げ量が多く、地下水はとうぜん枯渇にむかう。年あたり1.5mの水位低下も認められ、水紛争が激化し、農業と地域の衰退が進行中である。
黄河は、チベット高原からはじまっているが、「断流」のために海に流れこまない。さらに、流域の数千の湖沼が消えつつある。原因は農業・畜産・温暖化などにより黄河からの水消費・蒸発散が供給を上回っているからである。なお、水に含まれる塩類は土壌表層に集積し、塩害も拡大しつつある。
アラル海は縮小しつづけている。アラル海は淡水の湖である。この地域は年の降水量が200mmしかない。綿花の栽培はアラル海に流れこむアムダリヤ川などを涸らしてしまった。
現在は最大時の面積7万㎞ 2 の2割以下となり、塩害、砂漠、錆びた廃船などで荒涼としている。
【コラム5.1】 こんな誘導には注意しよう―その1.
自分に都合のよいように世論を誘導したい、けれども責任は負いたくない。どうする?
1)ダムを造りたいが、地下水を適切に使えば、ダムは不要になる。そこで、地下水は不安定で汚れているという。地下水こそ安定で清澄であることは言わない。また、地盤沈下を起こさない地下水利用法も言わない。
2)多目的ダムは治水(洪水防止)も利水(用水確保)も両方できると言う。しかしながら、貯水すれば治水できないし、空にすれば利水はできないことは言わない。「緊急放流」は貯水・治水の失敗である。たとえば、熊本・川辺川ダムを「緊急放流」したときのリスク試算の関係文書は「破棄した」と国は言う(毎日新聞、2021年5月3日の開示請求に対して)。
3)農業を犠牲にしてでも、工業製品を売りたいとき、「TPPはアメリカが強行するから断れない」と発信する。トランプ大統領がTPPから脱退しても、日本政府が率先してTPPを強行していることは言わない。
4)安倍、菅、岸田首相は日本学術会議の候補者6名を任命拒否した。理由はこの6名が日本国憲法の強い擁護者であるからである。これを任命拒否の理由にはできないから、「たった210名の学者が毎年10億円も税金を使っている」会議とした。とんでもない無駄遣い会議であるとマスコミも世論も「炎上」した。
学術会議は学者の国会として、国内外の学術問題を、国へ勧告し、国からの要請に答えてきた。短期間に報告書を出すなどけっこう過酷な作業がある。国の機関であるから私のような国立大学に所属する会員には「手当」はいっさいない。上記の10億円は何に使っているのか。ここで働く50名くらいの官僚や事務官の給料と諸々の維持管理費などに使っている。
ウソを言わずに人を貶め、「炎上」させても責任は負わない。こんな誘導には注意しよう。
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