【環境ミニ講座7.3】「入会地の悲劇」―利益は独占し、不利益は分かちあう―


                                                                                  2023/4/15第13 回


「100頭のウシが持続的に飼育できる草原で、10人がウシを10頭ずつ飼育していたとし

よう。 1人がさらに1頭を追加して飼育すれば、草原は1頭分の過放牧の不利益をこうむ

ることになる。

ところで、1頭を追加した人はその利益を独占できるが、不利益は10人で分かちあう、す

なわち責任は10分の1で済む。そこで、多くの人は競ってより多くのウシを追加する。か

くて草原は崩壊する(Hardin, G.1968、 The tragedy of the commons. Science ,162,

1243-1248)」。

これを「入会地(いりあいち)の悲劇」という。ここでは草原が「入会地」である。

 入会地は草原だけではない。万人が共有すべき川、海、大気なども入会地である。これ

らも「悲劇」に引きずりこまれる。たとえば、工場の排水や排煙の処理には多大の費用を

要するから、多くの企業は未処理のまま川、海、大気などへ「タレ流し」する。タレ流し

がもたらしたものがイタイイタイ病、水俣病、四日市ぜん息などである。

「入会地の悲劇」に共通する現象は、環境保全の経費を節減した利益はその企業が独占

し、環境修復や治療に必要な費用は被害者や不特定多数で分かち合うことである。時間が

経過して、環境修復や治療に対する責任や支払いが問われ始めるころは、加害者の特定が

困難になるだけでなく、被害者の特定も困難になる。かくて、「入会地の悲劇」の修復は

困難になる。

以下に入会地の悲劇の例をいくつか挙げてみた。あなたならどのような例を挙げるであ

ろうか。


【コラム7.3】「入会地の悲劇」のさらなる例

1) 日本の政財界は石炭による火力発電に拘泥している。理由は石炭の価格や税金がきわ

めて安価であるからである。しかしながら、石炭火発は大量のCO 2 を大気へ排出して、温暖

化を促進する。安価な石炭が生んだ儲けは電力社が独占し、温暖化のマイナスは世界全体

が分かち合う。典型的な「入会地の悲劇」である。

2)IRカジノは生産ではなく、消耗である。大きな収益の陰で、依存症、失業、経済破綻

などの社会的損失・消耗を必然的に生む。その損失額は表向きのIRカジノ収益の4~5倍と

されている。しかしながら、カジノから大きな収益が目論める推進者は週に2回までなら

ギャンブル「依存症」にならないなどとおっしゃる。依存症にならないはウソと知ってい

ても目前の金儲けには「確信犯」になれるのである。典型的な「入会地の悲劇」である。

3)築地から豊洲への市場移転の総整備費は6300億円(2016年)に膨れ上がった。年間総

収益180億円程度しか見込めない市場に6300億円も投資する民間会社はつぶれる。

この不適切な税金投入は問われることはない。都の第三者機関の入札監視委員会の委員

長に元・市場長や都幹部のOBが就任し、工事を受け持つ大手ゼネコンにも都の局長等のOB

が23人も天下りしているからである。万人が共有すべき税金が一部の輩に独占され、この

損失を埋めるのは一般の納税者である。

4)「新銀行東京」は2005年石原都知事時代に誕生した。「無担保・無保証」がウリであ

った。赤字まみれになり、銀行は破産した。都民の税を一部の人が「合法的に」パクリ、

これによって失われた税を都民全体が埋めあわせることになった。

5)原子力発電による過剰な利益は電力会社とこれにつながる省庁などの「原子力ムラ」

が独占してきた。それにもかかわらず、核廃棄物の処分や、炉心溶融の大事故の後始末に

は、電力会社ではなく、国民の税金が流しこまれている。さらに、最近2021年も岸田政権

や「原発ムラ」に6.4憶円の献金が日立製作所、三菱縦横行、大手商社、ゼネコンなどか

ら流れ込んだ(しんぶん赤旗,2022/12/31)。献金以上の見返りはわれわれの税金から支

払われることになる。

6)敵国を攻め・無力化するのに大量破壊兵器はいらない。ドローンやミサイルで原発施

設の電源や給水パイプを破壊するだけで充分ではないか。なぜ数十兆円の軍事費が必要な

のか。逆に、日本の国内の原発破壊で、日本全体も消滅する。数十兆円で何が守られるの

か。それにもかかわらず、外国の脅威をあおり、巨費の軍事費を投入すれば国防ができる

かのように装う「大本営」がうごめいている。なお、心配すべきことは、敵国に責められ

ることだけではない。利権を操る「大本営」は自国民の生活と命をすでに破壊し始めてい

る。

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